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■オリジナル作品:「僕のH2O ブログ編」(目次

「僕のH2O ブログ編」 第5回

<自分とは何か?>

A: ところで先ほど「家族は染物を買うお客さんではないけれど、他人ですよね」と言われましたね。家族って確かに自分自身そのものじゃないけれど、まったく赤の他人とは違う位置づけのような気がしますけど?
勉: 家族とは自分に近い人ではあるけれども、自分自身ではない。私が自分の為、という場合の「自分」とはあくまでも自分自身のことで、他人の為と言う場合の「他人」とは、家族のように自分に近い人も含めた全ての他人という意味なんです。
A: 自分とは個人のことだけを指すのですね。
勉: 僕が専攻している生物学でいう、免疫範囲を規定する「自己」と同じように考えてもいいと思います。
A: でも世間では、家族って他人とは違う特別な存在と見なしているんじゃないんですか?
勉: 解剖学者のY先生は、最近のご本のなかで「個人を『私』の最小単位とするならば、家族というのは最小単位の公共空間になる」と仰っています。僕がいう自分とは「個人」のことですから、家族は最小単位の公共空間、つまり他人なんです。
A: でも昔は違いましたよね。
勉: Y先生も「第二次世界大戦までの日本では『私』の単位は常に家にあった。(中略)それを戦後になって、憲法をいきなり変えて、『私』の最小単位を『個人』にした。今、だからわけがわからなくなったんです」と書かれています。確かに昔の考えと今僕が考えている「私」とは違うかもしれません。でも、急に昔に戻るわけにもいきませんから、僕は、自分とは「個人」のことで、家族は最小単位の公共空間、つまり他人なんだというところから再出発して、新しい価値観を作っていこうとしている訳なんです。
A: なるほど。でも家族のような自分に近い人の為に何かをすると、自分自身精神的な満足が得られますよね。
勉: だからそれは家族がその人のために何か、無形のことでも良いんですが、なにかを与えてくれている訳ですよ。
A: ああそうか、そのこと自体が、ある人の「生産」は別の人の「消費」であり、ある人の「消費」は別の人の「生産」であることのいい例なんだ。
勉: 「個人」に関する日本人の自己意識についてですけれど、日本語には主語が無いっていいますよね。私とか君とかの主語を使わなくても会話ができてしまうでしょ。
A: ときどき主語が入れ替わったりします。
勉: それって半分透明人間みたいですよね。昔はそれで通じていたんでしょうけれど、これからは自己の特定化をきちんとしないと、話が通じない世の中になっていくと思います。

A: ところで、生物学でいう自己と環境の関係は複雑そうですね。
勉: そう、どこまでが自己(内)でどこまでが非自己(外)か。そして環境とはなにか。このあいだ大学で生態心理学の講義を受けたんですけど、そこで出てきたアフォーダンスの理論が面白いんです。その考え方によると、この世界は、普通いわれるような三次元空間として捉えるべきではなく、ミディアムという水や空気のような媒体と、サブスタンスと呼ばれる形を持った物質、それにサーフェスとよばれる物質の表面とから出来ているという考え方なんです。我々の体が運動するということは、三次元空間の中をある方向に移動することではなく、体というサブスタンスが、空気というミディアムの中で他のサブスタンスの表面と出会うことだと考えるべきだというんです。
A: 他のサブスタンスがあって初めて自己が確認できる?
勉: そういうことです。まわりに何もなければ自己も何もないわけですよ。音や光を運ぶ媒体があり、地球というサブスタンスがあってはじめて自分の立ち位置が確認できるわけです。僕が考えるこの生産と消費の構造も、人間社会という媒体があり、他人というほかのサブスタンスがあってはじめて自己がある、ということなんです。自分とは、他者があってはじめて存在するんです。生物学的にいっても、非自己があるから自己があるわけです。免疫力とは自己と非自己とを区別する力ですから。
A: 生産と消費論はアフォーダンスの考え方と似ているわけですね。
勉: これまでの経済学理論では、生産と消費とは別々の場面で、それぞれ異なった動機で行われ、その価値は通貨という客観的な価値基準で決まるとされていました。でも僕の理論では、生産と消費はコインの裏表のようなものであり、それは、アフォーダンス理論で環境と知覚とが表裏一体とされるのと同じ構造だと考えられるんです。<続く>
「僕のH2O ブログ編」 第5回(2009年12月04日公開) |目次コメント(0)

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