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■オリジナル作品:「太陽の飛沫」(目次

「太陽の飛沫」 第3回

「マリーのことだって変な噂があるの。友達の伯母さんが、マリーと別れたベルニーニという伊太利の富豪と仕事上の付き合いがあって、マリーの事をいろいろ聞かされたわ。彼女によるとあれは一種の結婚詐欺らしいわ。ベルニーニさんは大金持だから痛くも痒くもないでしょうが、それでも当時彼ったら一方的な離婚と莫大な慰謝料で苦り切っていたそうよ。それ以来今でもベルニーニ氏はマンハッタン六十五丁目のだだっ広いアパートに一人で住んでいるんですって」
 優子にマリーの噂話をした女性は地元スカースデール銀行の重役だが、この夏心臓発作を起こして入院していた。優子は、彼女の姪に当たる同級生で友人のキャシー・ロレンスと連れ添って病院へ見舞ったときにそれを聞いたのだった。
「僕はそんな話、信じちゃいませんよ。でもマリーが変な女だというのはその通りだな」英二はそう云って、マリーとヨットクラブで食事をしたときの様子を良子に話した。

「父がマリーに惚れ込んでいることは確かね」優子が話を続けた。「先日も父から葉書がきて来年二月、母のファッション・ショーが予定されているのと同じ頃、マリーと一緒にリオの謝肉祭へ行こうと言うのよ。父は初めから母に協力する積もりなんかないのよ。そればかりではなく、私達すらも母を手伝えなくなるように企んでいるんだわ」
 優子はバッグから一枚の絵葉書を取り出して良子に見せた。それは大きな弧を描く海岸線に高層ビルが並ぶコパカバーナ・ビーチの絵葉書で、次のような文章が書かれていた。

「前略、 英二と優子へ
今、僕はブラジルのリオにいる。南米のあちこちで美術・骨董品を探し回ったので大分疲れが溜まったところだ。此処で暫く休んだ後、予定通り墨西哥(メキシコ)へ行く。帰るのはそれからだからまだ一と月程君達とは会えない訳だ。元気にやっているから僕のことは心配しなくても良い。リオの街は何処も原色が溢れている。来年二月の謝肉祭にマリーと一緒に来てみないか、きっと楽しいぞ。では、身体に気をつけて。  早々、 峻介」

「姉さんのショーのことは勿論峻介さんに伝えてあるわ。でもこの葉書には、同じ時期にリオへ行こうと書いてあるわね」葉書を読み終えると良子が驚いた表情で言った。
「そうなのよ」
「それであなた達、具体的にどうしたいの?」
「とにかく母にこのことをよく言っておいて欲しいの。それから秋になったらマンハッタンにアパートを借りて欲しいわ。叔母さまもまたすぐ来られるのでしょう?」
「姉さんが九月に来てショー会場の確認さえしたら、今度私が来るのは年末か年明けになるわ」
「それぢゃ遅いわ。この秋に二人は結婚するつもりでしょうから、九月に母が来た時に手配して貰わなきゃ」
「学校はどうする積り?」
「アッパー・ウエストの辺りなら、昔住んでいたから問題ないわ」
 優子の言い分を一応聞き容れた上で、良子は最後に、
「私は来週日本へ帰るけれど、優ちゃんの話は直子姉さんによく説明しておく。しかしあなた達を日本へ帰すかどうかはやはり姉さんと峻介さんが直接話し合う必要があるわ。あなたたちもこれからどうしたら良いのかよく相談しておいてね」と言った。―――<続く>
「太陽の飛沫」 第3回(2009年10月09日公開) |目次コメント(0)

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