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■オリジナル作品:「百花深処 II」(目次)

「百花深処」 <明治憲法の顕教と密教>

 『天皇機関説タイフーン』平山周吉著(講談社11/2025)という本を読んだ。「天皇機関説」とは、天皇を「国家の最高機関」とする美濃部達吉氏の学説で、昭和初期に「不敬」だとして右翼や軍部から攻撃され葬り去られた。本の帯に「この国の節目は昭和十年にあり!」とある。それは機関説が(昭和十年に)葬り去られたあと、時代が神がかり的な「天皇主権説」の天下となったことを指していよう。帯の文章をさらに紹介すると、

(引用開始)

言論はいかに弾圧され、口を封じられるのか。どうやって人々は生き延びるのか。台風の如く、人々を翻弄し、敗戦に至る日本の行く末を決定した天皇機関説事件。「昭和百年」に「合法無血クーデター」の真相に迫る。
評伝『江藤淳は甦える』の著者による、天皇と憲法をめぐる人間ドラマ!

(引用終了)

ということで、この本は、美濃部達吉をはじめ陸軍の真崎甚三郎、東大の宮沢俊義、学習院の清水澄、昭和天皇など、多くの人物を登場させとても読み応えがある。

 この本のなかに「顕教」と「密教」という言葉を使った興味深い指摘がある。

(引用開始)

 真崎甚三郎の敗北を見て去来するのは、久野収と鶴見俊輔によって提起された天皇制の「顕教」と「密教」論である。昭和三十年(一九五六)に出た『現代日本の思想』の「日本の超国家主義」の章で提出された図式である。あまりに有名なので今さら説明するのも気が引けるが、伊藤博文が中心になって作り上げた明治国家は、帝国憲法と教育勅語を二本柱とした。天皇制についてその核心は、エリート層と一般国民とでは違う教えられ方がなされた。義務教育や中等教育では、天皇は教育勅語を発した絶対君主であり、高等教育にいたって初めて、天皇は帝国憲法によって限界づけられた制限君主であると教える。あくまで建て前に過ぎない「顕教」と、体制の申し合わせである本音の「密教」と、二つの顔が使い分けられた。エリートのA層には「密教」が、大多数のB層には「顕教」が与えられた。そのシステムが壊されるのが天皇機関説事件という運動だった。(中略)
 真崎のケースを仔細に見ると、むしろ「密教」のさらに奥の院には、もう一つの「顕教」と「密教」があったのではないかと思えてくる。真崎は単純にも、その「顕教」部分にしか気づかなかった。もしくは、「密教」部分に関与することができなかった。真崎はA層に属してはいたが、「A層の中のA層」ではなく、「A層の中のB層」(あるいはA’層)に過ぎず、「密教」内の「顕教」を信じ込んでいた。「密教」の奥のさらなる「密教」部分では、元老が、重臣が、側近が、高級官僚が、天皇の意を汲んで差配していたのではないか。陸軍であれば「統制派」が重用され、「皇道派」は遠ざけられる。派閥ということだけでなく、個人の評価や好悪といった泥くさい人為的要素も入ってくる。玉座から見れば、「信任」と「不信任」の差となる。神ならぬ人間が公平無私であることは、たとえ帝王学が完璧であっても至難だ。人間の世界なのだから、当然である。「信任」された代表が、時代はズレるが東條英機であり、「不信任」の代表が真崎甚三郎だった。「機関説天皇」の中に潜む「御親政的天皇」の優位だ。
 そこに気づかず、真崎などは「一視同仁」の幻想を愚かにも追っていたのではないか。

(引用終了)
<同書 294−296ページ(フリガナ省略)>

この“「密教」の奥のさらなる「密教」部分では、元老が、重臣が、側近が、高級官僚が、天皇の意を汲んで差配していたのではないか”という部分、当時三十歳半ばの若い君主(昭和天皇)であれば、自分たちの権勢を伸ばそうとする奸臣に、意を操られる側面も多々あったのではないだろうか。そう考えると、明治憲法全体として、

�@「顕教」:絶対君主(国民は天皇の赤子)
�A「密教」:天皇機関説
(1)「密教内の顕教」:�@を建て前としながらも議会による政党政治を育てる
(2)「密教内の密教」(表):天皇の意を汲んで物事を差配
(3)「密教内の密教」(裏):�@を隠れ蓑として自分たちの権勢を伸ばす

という構図を描くことが出来そうだ。

 伊藤博文以下の作り上げた「現人神天皇制」が危険な所以は、国民が「顕教」に踊らされることにあるだけでなく、「密教」の存在、特に�Aの(3)の存在、を許してしまう所ではないだろうか。似たような構図は「天皇制」を引き継いだ昭和憲法についても描けると思う。
「百花深処」 <明治憲法の顕教と密教>(2026年06月17日公開) |目次 |コメント(0)

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