前回の<戦前の要人暗殺>との繋がりで、『原敬』清水唯一郎著(中公新書2021)を読んだ。副題は“「平民宰相」の虚像と実像”。本カバーの表紙裏から紹介文を引用しよう。
(引用開始)
初の「平民」首相として、本格的政党内閣を率いた原敬。戊辰戦争で敗れた盛岡藩出身の原は苦学を重ね、新聞記者を経て外務省入省、次官まで栄進する。その後、伊藤博文の政友会に参加、政治家の道を歩む。大正政変、米騒動などの民意高揚の中、閣僚を経て党の看板として藩閥と時に敵対、時に妥協し改革を主導。首相就任後、未来を見据えた改革途上で凶刃(きょうじん)に倒れた。独裁的、権威的と評されるリアリスト原の軌跡とその真意を描く。
(引用終了)
原敬に関する年譜は以下の通り。
安政03年(1856):02月、陸奥国盛岡郡に生まれる
明治01年(1868):12歳、明治政府成立
明治09年(1876):20歳、司法省法学校に入学(翌年退学)
明治12年(1879):23歳、「郵便報知新聞」に入社
明治15年(1882):26歳、外務省御用掛となる
明治16年(1883):27歳、天津領事任命
明治18年(1885):29歳、パリ公使館書記官任命
明治22年(1889):33歳、帰国、農商務省参事官
明治25年(1892):36歳、外務省通商局長
明治27年(1894):38歳、日清戦争起こる
明治28年(1895):39歳、04月日清戦争終結
明治28年(1895):39歳、05月外務次官
明治29年(1896):40歳、駐朝鮮特命全権公使
明治30年(1898):42歳、待命、「大阪毎日新聞」入社
明治33年(1900):44歳、11月「大阪毎日新聞」退社、政友会入会
明治33年(1900):44歳、12月、伊藤内閣逓信大臣就任
明治34年(1901):45歳、内閣総辞職
明治35年(1902):46歳、衆議院議員初当選(以降七回無競争で当選)
明治37年(1904):48歳、日露戦争起こる
明治38年(1905):49歳、日露戦争終結
明治39年(1906):50歳、西園寺内閣I内務大臣就任
明治41年(1908):52歳、07月内閣総辞職
明治41年(1908):52歳、08月米欧周遊
明治44年(1911):54歳、01月大逆事件判決
明治44年(1911):55歳、05月満韓周遊
明治44年(1911):55歳、08月西園寺内閣II内務大臣兼鉄道院総裁就任
大正01年(1912):56歳、内閣総辞職
大正02年(1913):57歳、山本内閣I内務大臣就任
大正03年(1913):58歳、03月内閣総辞職
大正03年(1913):58歳、06月政友会総裁就任
大正03年(1914):58歳、07月第一次世界大戦起こる
大正07年(1918):62歳、09月原敬内閣成立
大正07年(1918):62歳、11月第一次世界大戦終結
大正09年(1920):64歳、後藤新平東京市長就任
大正10年(1921):65歳、11月原敬東京駅頭で暗殺される
原敬は後藤新平と同じ岩手出身で、歳も一つしか違わない(原が1歳年上)けれど、その政治姿勢は大きく異なった。片や新聞記者あがりの政党政治家、片や医者出身の理系行動派だったから、植民地の統治方針(原は内地延長を主張、後藤は特別統治を実践)から、政党政治への姿勢(原は政党第一主義、後藤は適材適所主義)、そして鉄道の軌間(原は狭軌主張、後藤は広軌主張)に至るまで、事あるごとに二人は意見を異にした。
二人が一緒に仕事をしたのは、原の首相就任中(大正09年)、後藤が東京市長になったときぐらいだったのではないだろうか。しかしそれも原が暗殺されたことですぐに終わってしまった。「後藤新平は、原がまさに変化を始めたときに訪れた凶変だったとその死を惜しんだ」(『原敬』295ページ)、「新平の心に一陣の木枯らしが吹き抜けた。(中略)ふと顧みれば、日本の近代化という遥かな高みに別々の道から登っていたのかもしれない」(『後藤新平 日本の羅針盤となった男』264ページ)ということで、最後の数年間だけ二人は互いに理解し合えたようではあるが。
ブログ『夜間飛行』「
統帥権と国体」の項で、明治憲法下の制度の問題は「現人神天皇制」と「統帥権の独立」だろうと書いたが、共に岩手出身の二人が、早くから手を組んでこの問題に立ち向かっていたら、大正以降の日本の歴史は変わっていたと思う。しかし残念なことに二人は、それぞれのやり方で国際社会における日本の地位向上と社会発展に尽力したところまでで生涯を終えてしまった。日本はこの問題(現人神天皇制と統帥権の独立)を抱えたまま戦前昭和に突入してしまう。
この評論では、同時代に生きた有能な2人が時代認識を共有していたにも拘らず、様々な理由から、手を組んで政治の方向を変えることが出来なかった例を、<
武士の再興>と<
渋沢栄一と福沢諭吉>でみてきた。併せてお読みいただきたい。