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■オリジナル作品:「続・記号のような男」(目次)

「続・記号のような男」 第二十三回

23.「次治」にて(3)

 二月末の月曜日、居酒屋「次治」に<やじこう>の四人と芝山輝夫(キーオ)が集合した。いつものようにまだ早い時間なので他の客は少ない。
「二月の市議会で市街化調整区域の規制緩和要請議案が否決された」衿子がいった。「賛成反対同数で議長が裁決権を行使したって」
「安西青年が谷沢派の議員たち9人を回って反対票を入れるように説得してくれたんだ」と八ちゃん。
「島谷派の7人は賛成するとして、過半数を取るには無所属の“その他4人”が鍵を握っていたのよね」みつこがいった。
「かれら全員賛成していたら可決してたな」とトツさん。
「そのことなんですけど、どうも今から考えると、有先町の無所属の田所さんが反対に回ってくれたのではないかな」とキーオがいった。「例の森山さんが紹介してくれた県の局長さん、稲山さんというんですけど、彼と有先町の食堂に寄ったらそこに田所さんが来ていて、名刺交換しながら話したんですけど、桑富の街づくりに関して稲山さんが僕らの目指している方向を支持してくれたんです。それで田所さんもそれが正しいと思ってくれたのではないかと」
「食堂の店主の弟だったんだよな、田所議員は」と八ちゃん。
「多分偶然なんですけど、もしかしたら久岡さんがそれを知っていてお昼の場所に選んだのかもしれません」
「その可能性は薄いな、久岡さんがそんなに地元に詳しいとは思えない」
「そうですね」
「でも久岡さん、いい店選んでくれたよ」
「とにかく田所さんを説得してくれたのが稲山さんだとすると、森山先生に感謝よね」とみつこ。
「そう、彼を呼んでくれた森山先生のお陰よ」衿子も同意する。
「稲山さんは道路整備局じゃないけど、その局長さんとはよく話しているそうだから、道路を延長する件にも疑問を呈してくれると思います」
「駐車場が出来なければ道路延長もないんだよね」とトツさんが確認する。
「ええ、多分」と衿子。
「でもさあ、変なのは俺、有前町の無所属の牛島さんから私は反対票に入れましたって、聞いたんだよな」八ちゃんがそういって頭を掻いた。
「なに?」
「じゃあ、谷沢派の誰かが賛成票を投じたってこと?」
「田所さんと牛島さんが反対したとすると、そうなるわな」
「わからないね、政治の世界は」とトツさん。
「とにかく森山先生には感謝だね。森山先生の農業講座、今月二回目があったけど人がいっぱい来てた」と衿子がいった。

「農業の後継者づくりは『桑富・半農半X』が動き出し、市の『桑富農業移住計画』の方も四月から立ち上がる」
「谷沢市長、やっぱり農地の規制緩和に反対だったのね」
「そうそう、最後にやってくれたね。議長が谷沢派でよかった!」
「議長の裁決権で決まったんだからな」
「谷沢さん、お歳だけど元気そうよ」と衿子。
「おれのところの<やされん>も順調に回っている。来月三回目の農業講座で『桑富・半農半X』と一緒に紹介することになった」
「四月の屋台村の準備もあるから忙しいわね」
 <やじこう>のメンバーが中心の屋台村実行委員会は一月に会合を開き、今年の屋台村は例祭の前日と当日それに翌日の三日間開催とすることを決めていた。

「駒井会長が頑張っている駅前商店街の歩行者天国も準備万端のようだよ」とトツさんがいった。歩行者天国は日曜日限定で行う。有前神社から有前山山頂にできる社殿の竣工式は例祭の前日と発表されたから、四月の例祭前後のスケジュールは、

例祭前日(金曜日)社殿の竣工式 屋台村初日
例祭当日(土曜日)神輿出る 屋台村二日目
例祭翌日(日曜日)歩行者天国 屋台村三日目

となる予定である。

「じゃあ、今日はまず議案否決を祝って乾杯しようか」とトツさんがいった。
「おいおい、もう一つ祝わなきゃならない事ある」
「なんだっけ」
「踏切の再開だよ。埼玉鉄道が県に申請してOKが出たって」
「そうなんです、きのう市役所の石川さんから連絡がありました」嬉しそうに芝山がいった。
「すごい、おたくの所長さんっていい人なのね。ちゃんと部下のことをフォローしてくれる」
「はい。あれ、埼玉鉄道の社長さんが有前山の山頂で踏切再開を思い付いたっていうことらしいんですけど、一緒にいたうちの所長がうまく話を誘導したんではないかと。所長は四年前の参道公園づくりのときも社長さんに頼んでくれたんです。あのときはいろいろあって検討が中止されましたけど」
「そうか、踏切再開の申請は県庁の道路整備局にいくから、整備局もいろいろと事情聴取するだろうし、その結果、県道延長の方が棚上げになることを狙ったのかな」
「稲山局長の話もあるし、市街化調整区域の規制緩和も否決とされたから、道路延長が棚上げになることはたぶん確定ね。今後産業連合会がどうでるか分からないけど」
「参道の一気通貫が守られる!」
「所長さん、そこまで読んでいたのかしら?」とみつこ。
「そうだとすると、所長さん恐るべしね」と衿子がいった。

「ところで、踏切はいつオープンできるのかな?」とトツさんが尋ねた。
「それはまだ聞いていません」
「工事の都合もあるだろうけど、社殿の竣工式に間に合うといいわね」
「そうできたらさあ、みんなで参道公園に集まって、そこからまっすぐ参道を通って有前山まで歩こうぜ。気持ちいいだろうなあ」と八ちゃん。
「晴れれば最高だね」とトツさん。
「いよいよ四年越しの夢が実現するね」店主のじーちゃんが奥から秘蔵の焼酎を出してきて皆に注いでくれた。五人は八ちゃんの音頭で乾杯した。

(つづく)
「続・記号のような男」 第二十三回(2026年03月22日公開) |目次 |コメント(0)

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