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■オリジナル作品:「続・記号のような男」(目次

「続・記号のような男」 第十回

10.産業連合会

 放射光研究所の伊藤経理部長が桑富産業連合会に連絡した、埼玉鉄道の社長がショッピング・モールの車のアクセスを心配しているという話は、すぐに産業連合会の主(ぬし)といわれる松井土地(株)の松井潤造社長に伝えられた。松井は今年七十歳になるが至って元気で、今回のモール建設に関しても自ら旗振り役を買って出ている。

 松井家は代々この地域に広い桑畑を有する豪農だったが、戦後祖父の代に、農地改革によって不在地主から小作の手に移った農地を次々に買い取り、在地農家としてさらに畑を増やしていった。昭和の高度成長期になると、潤造の父時造は農業から徐々に手を引いて不動産会社(松井土地)を興し、地元の建築会社と組んで桑富駅周辺に商業ビルやマンションを建て始めた。昭和の終わりに跡を継いで社長になった潤造は、父親の事業をさらに発展させるべく、駅北側の新桑富町の土地を買い占めて、オフィスや市庁舎などを集約したビル群を建設した。その過程で彼は、桑富の商業や製造業の主だった会社を集めて「桑富産業連合会」という組織をつくり会長に収まった。連合会は初め親睦会のようなものだったが、次第に桑富の経済発展のための様々な活動を組織化するようになった。穏健派市長が二期続いて地元経済に陰りが見えてくると、潤造は甥で埼玉県議を務める松井悌一と相談、二年前の市長選挙で新自由主義を信奉する島谷健候補を担ぎ連合会丸抱えの選挙運動を展開したが、そのときはおしくも現職の穏健派谷沢市長に敗れた。再来年の市長選挙は捲土重来ということで、ふたたび島谷候補を担ぐ予定。今回のショッピング・モール建設は、経済発展投資に県から来年以降助成金が出るという悌一からの情報を得た潤造が、市長をはじめ親しい市議と産業連合会を巻き込んで計画をスタートさせたものである。産業連合会の主なメンバーは、松井土地の他、住宅建築の昭栄建宅桑富支社、バス・タクシーを運営する桑富交通、消費者金融のトーマツ(唐松)、セキュリティ・ソフトのBHM、スーパー・イワタ、物流と倉庫の三浦運送、国枝不動産、車の地元ディーラー各社、精密機械の大東計測器、佐久間印刷、桑富商店街のれん会、それに桑富酒造などである。半官半民の放射光研究所も一応会員として名を連ねている。

 産業連合会は、ショッピング・モールの計画当初から車のアクセス問題を認識してはいたが、南の奥武蔵街道からのアクセスを多少良くすることで対応できると考えていた。しかし埼玉不動産の親会社の社長がそのことを問題視していると聞き、モール運営を請け負う予定のイワタ・グループ(スーパー・イワタの親会社)とモール建設を担う昭栄建設に対して再検討を要請した。しかしその結果を待たずして、伊藤部長から広瀬事務局長に、非公式ながら埼玉県の道路整備局から、もし桑富市が既存の県道をモール敷地付近まで延長することを望むのであれば、その検討を開始しても良いという話が伝えられた。産業連合会としては渡りに船ということで、誼(よしみ)を通じた埼玉県議の松井氏を通して道路整備局へ直接コンタクトすると共に、桑富市議会に対して県道延長要請のための議案準備を始めた。

 産業連合会はまた、県道延長に伴う車アクセス増への対応策として、モール予定地の東側に追加駐車場用としての土地を取得する検討に入った。そこは埼玉不動産の土地ではないので、地元の農家から土地を買い上げなければならず、桑富市の場合、そのあたりは市街化調整区域で農業以外の宅地開発は出来ない。しかし、市が規制緩和すれば出来るようになる。松井会長は再来年の市長選挙で島谷候補が当選すれば規制緩和の議会承認が可能になると踏んで、農地買収の検討を指示したのである。

(つづく)
「続・記号のような男」 第十回(2025年12月21日公開) |目次コメント(0)

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