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■オリジナル作品:「百花深処 II」(目次

「百花深処」 <芭蕉の俳句>

 『芭蕉はがまんできない』関口尚著(集英社文庫)という本を愉しく読んだ。副題は「おくのほそ道随行記」。内容について新聞の書評を引用しよう。

(引用開始)

師のキャラ生き生きと

 紀行文『おくの細道』で知られる、俳諧師の松尾芭蕉の奥州の旅には、弟子の曾良が同行していた。本書はその曾良の視点で、旅の一部始終が綴られている。
 とてつもない才能で己の俳諧を確立させようとしている芭蕉。だが、せっかちで頑固。さらに矛盾のある言動が当たり前の、難しい性格の持ち主であり、なにかと曾良を翻弄する。しかも創作のために、旅の途中で自分と別れることも考えていると知った。人間性も俳諧の腕前も平凡だと思い、師に対しては尊敬、嫉妬、反発など、複雑な感情を抱く曾良を通じて、芭蕉のキャラクターが生き生きと表現されている。ここが本書の大きな魅力になっている。
 また、芭蕉の数々の名句が、何度もの改良を経て完成されていく。説得力を持って描かれた、句の改良過程も、興味の尽きない読みどころとなっているのである。細谷正充(文芸評論家)

(引用終了)
<東京新聞 05/03/2025(振り仮名省略)>

本書には冒頭に旅程地図があるので、どこでどの句が読まれたかが分かる仕組みになっている。それぞれの章で掲載された句を場所と一緒に掲げておこう。いまさらではあるが備忘録的に。

@ 深川〜千住
<草の戸も住み替はる代ぞ雛の家>
A 草加〜粕壁
<萩原や一よはやどせ山のいぬ>
B 間々田〜日光
<あらたふと青葉若葉の日の光>
C 玉生〜黒羽
<木啄も庵はやぶらず夏木立>
D 黒羽滞在
<夏山や首途(かどで)を拝む高あしだ>
E 那須湯本〜白河
<田一枚植えて立去る柳かな>
F 須賀川
<世の人の見付けぬ花や軒の栗>
G 郡山〜仙台
<五月乙女にしかた望まんしのぶ摺>
H 塩竃〜松島
回想として<古池や蛙飛びこむ水のおと>
I 石巻〜立石寺
<夏草や兵どもが夢の跡>
<閑さや岩にしみ入る蝉の声>
J 大石田〜新庄〜出羽三山
<五月雨をあつめて早し最上川>
<雲の峯いくつ崩れて月の山>
K 鶴岡〜酒田〜直江津
<暑き日を海に入れたり最上川>
<象潟の雨や西施がねむの花>
<荒海(なみ)や佐渡に横たふ天の河>
L 市振〜金沢
<一つ家に遊女も寝たり萩と月>
M 小松〜山中温泉
<山中や菊は手折じ湯の薫(にほい)>

省略した句もあるが以上。私はとくに、

<あらたふと青葉若葉の日の光>
<閑さや岩にしみ入る蝉の声>
<五月雨をあつめて早し最上川>
<雲の峯いくつ崩れて月の山>
<暑き日を海に入れたり最上川>
<荒海(なみ)や佐渡に横たふ天の河>

といった、自然や宇宙を取り込んだ柄の大きな句が好きだ。皆さんもこの本で、曾良と芭蕉と一緒に奥州を旅してみてはいかがだろう。
「百花深処」 <芭蕉の俳句>(2025年06月15日公開) |目次コメント(0)

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