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■オリジナル作品:「記号のような男」(目次

「記号のような男」 最終回

19.開園式

 公園とトンネルは翌年の春完成した。芝山が参道の緑をつなぎたいと思ってから二年後のことだった。開園式が行われたのはよく晴れた穏やかな日だった。「参道公園」と書かれた石のプレートが鶴橋の袂に置かれ、遊歩道が縦五十メートルに亘り北向きに延びている。その左右に芝生が広がっていた。芝生のところどころに花壇や市民農園、運動広場などができている。遊歩道沿いには桜の苗木があった。並木の“ひこばえ”を接ぎ木の技術で育てたものだ。人々は朝から昔空き地だったところを楽しそうに歩いていた。

 公園の西端を斜めに横切る有前川。その土手道を北へ辿ると住宅街に入る。しばらくすると線路を潜るトンネルみえてくる。階段を下りて反対側まで歩きまた階段を上がると、川と土手道はさらに西北へ続く。まわりは畑で水路が四通している。途中、「参道へ」と書かれた看板が人を右手へ導く。しばし畑道をゆくと、やがて南北に通る参道(の続き)に出るという寸法だ。

 公園では、都市整備部公園緑地課の石川由香や計画課の例の若い男、その他数人の市役所職員が市長挨拶の準備に立ち働いていた。挨拶のための台が西側奥に設えられ、その前に椅子が数列並んでいる。後ろの金網に「祝・参道公園完成」と書かれた横断幕が掲げられていた。

 開園式には次治の常連も顔を見せた。八ちゃん、トツさん、みつこ、衿子の四人、店主のじーちゃんも来ていた。トツさんが芝山にいった。
「ぼく、最近思うんです。海から魚を釣り上げて人の食卓に届ける。それって海と人とをつないでいるんだなって。仕事ってみんなつながりじゃないかって。生きてるってみんなつながりじゃないかって」

 桜岩寺保育園の島田園長が芝山に「私の夢とキーオさんの夢が同時に叶うなんて」と嬉しそうにいった。推進協議会のメンバーが“有水の自然を守る会”の人たちと話している。推進協議会は公園の完成とともに解散するが、多くのメンバーが今後も何らかの形で地域活動に従事したがっている。

 なんと栗山光男も公園に姿を見せていた。くたびれたトレーニング・ウエアーを着て鉄棒にぶら下がっている。芝山を見ると苦虫を潰したような表情でぷいと横を向いた。

 芝山は幸子を呼びとめた。
「参道をつなぐなんて実生活に何の訳にも立たないと思ったけど、こうして公園や川の道ができて本当によかった」
「信念を持ってやれば石も動くってことね」幸子がいった。
「住職さんが言ってた、一行三昧(いちぎょうざんまい)だって」
「今日来ていないわね、遂慧さん。功労者なのに」
「島田さんに聞いたら法事があるんだって。こんど挨拶にいってくるよ」

 研究所の経理部の部下たちも祝いに駆けつけた。杉田係長を除いて。主計補佐の堀辺麻耶、出納係の魚島桐子、原価担当の三村篤史、伝票係の時田玲子、そして新人当麻美優の五人。「キーオさん、すごーい」とはしゃぐ当麻美優を頭(かしら)に、公園と有前川の土手沿いを行ったりきたりしている。魚島桐子が芝山を見て「記号が実体をつくっちゃいましたね」といった。

 ハイキングの女性(工事中の公園でキーオに話しかけた人)が友達と一緒に来てくれた。「ネットで開園式があるって知ったんです。あれからわたし、ここの有水山系が大好きになりました。歩きやすいですよね」芝山は彼女に“有水の自然を守る会”の人たちを紹介した。

 有前神社の宮司も式典に来ていた。「有前山神社のご祭神は大山祗神さまと木花咲耶姫さまですな。大山祗神さまはうちの素戔鳴尊さまとご兄弟ですし、木花咲耶姫さまとうちの須世理姫さまはそれぞれの娘さんですから、昔浅間大社さんの方でも気を利かせたのかもしれません、縁が切れないようにと」前田宮司はそんなことをいった。

 岩田巡査も姿を見せた。「キーオさん、あれから二年経つんですね。ご一緒にプランターを運んだのを昨日のことのように思い出します」この巡査、いつもニコニコしていてそれが不気味である。

 公園の中ほどを見ると、良子と保育園の母親たちが子供らと一緒に座っていた。芝山が近づくと良子が隣に座る場所をつくった。
「これがみんな、ぼくがある日参道で上を見上げたことに端を発しているなんて信じられるかい?」芝山がいった。
「参道をつなぐ意味、まだわかんないけど、輝樹が喜んでいることだけは確かね」良子がいった。
 輝樹が何かを指差した。輝樹の指差す先を見ると、“ひこばえ”がちいさな緑のトンネルを作っている。目線を下げて輝樹と一緒にそのトンネルを覗くと、その向こうに有前山が見えた。

(おわり)
「記号のような男」 最終回(2019年05月25日公開) |目次コメント(0)

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