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■オリジナル作品:「百花深処」(目次

「百花深処」 <代議制>

 <一所懸命と天下布武>の項で、信長の統治形態の可能性を、

〇 中央政治(外交・防衛・交易)は預治思想による集権化
〇 地方政治(産業・開拓・利害調整)は天道思想による分権化
〇 文化政策(宗教・芸術)は政治とは切り離して自由化

とし、“中央と地方政治との連携は、本場中国のような科挙制度による官僚の郡県制ではなく、「預治」を「民意を預かり治める」意味(天命=民意)として、代議制を導入する。そして、<一所懸命>な地方の声を、<天下布武>の政策に生かす。そもそも騎馬文化は合議制という特徴を持っているから、信長はそれを上手く利用してここまで統治思想を進め得たのではないだろうか”と記した。今回はこの、市民革命を経ない別の入り口からの代議制成立の可能性についてさらに考えてみたい。西洋では市民革命を経て(憲法によって)民主制度・代議制が成立した。市民革命抜きにそのようなことが可能だっただろうか。

 まず、天道思想における代議制について。<宗教・思想基本比較表>において、天道思想は、

<天道思想>
「対象」:天道信者
「至高」:天道(自然現象)
「教義」:神仏儒などの宗教
「信仰」:教義を守る(儒教の教義を守る)
「特徴」:個人救済。因果律。

ということだった。ここでの代議制のロジックは、「至高は自然現象そのもの。民(人)はその一部を成している。代議制はその民意を集約するため」となるだろう。

 次に、預治思想における代議制について。<宗教・思想基本比較表>において、預治思想は、

<預治思想>
「対象」:日本国
「至高」:天命
「教義」:天下布武(未完成)
「信仰」:教義を守る
「特徴」:政治による集団救済。因果律。

ということだった。ここでの代議制のロジックは、「日本国においては天命=天道とし、代議制は地方の民意を中央の政策に生かすため」となるだろう。<天道思想について>の項でまとめた天道とは、

(一)人間の運命をうむをいわさず決定する摂理
(二)神仏を等価とする
(三)世俗道徳の実践を促す
(四)外面よりも内面の倫理こそが天道に通じる
(五)太陽や月をはじめとする天体の運行に存在を実感できる
(六)鎌倉時代には日本人の自家薬籠中のものであった
(七)信仰を内面の問題とし他者への表明は不要
(八)その摂理は人間の理解を超えたものである

というもの。“お天道様はすべてお見通し”というあれだ。自然豊かな日本列島、この地で「天命」を戦国時代の人々が信奉した「天道」に帰着させるのは妥当なことだと思う。<天道思想について>で引用したように、信長も子息信雄に対して“お前の敗戦は天道の罰であり、太陽も月も地に堕ちていない証拠である”と述べている。

 これらの代議制は、西洋近代の市民革命を経たものではないから、民の権利として存在するわけではない。士農工商を前提にして考えると、地方政治では、武士の代表が棟梁として地方領土を治め、農の代表が村の役職に就き、工商の代表が産業政策を担うといった役割分担になっただろう。中央政治では、武士たちが主な役割を担い農工商の代表も力があれば登用されただろう。また、代議者を選ぶのは個人ではなく、<近世の「家(イエ)」について>や<百姓の家(イエ)の成立>の項で考察した「家(イエ)」がその主体となったのではないか。都市の富豪や民衆の力が次第に強くなっていった西洋とは違い、この時代、列島の民個々人の権利意識は弱かっただろうから。<新しい思想>の項で「家(イエ)制度を導入する」と書いたのはこのことが念頭にあった。ちなみに、同項で纏めた統治システムは、

(い)民意を上手く掬い上げる為に士農工商各層代表を選出する
(ろ)効率向上の為に地方分権を推し進める
(は)「家(イエ)」制度を導入する
(に)防衛力の強化、交易ルールの整備を行う
(ほ)法の整備、中央と地方政治の役割分担を定める
(へ)科学を発展させ、世界標準の考え方に基づいた外交を展開する
(と)宗教の自由を保障する

といった内容。同項では“世界標準の考え方と突き合わせれば、やがて四民平等の発想も出てくる。「家(イエ)」システムに手を加えれば、西洋並みの個人の自立にも対応できる筈だ”とも書いておいた。

 いかがだろう、市民革命を経ない別の入り口からの代議制成立の可能性。勿論「タラレバ」ではあるのだが、信長の時代にここまで統治システムが整備されていれば、<「神国日本」論>でみたような西洋の圧力に対して、もっとスマートな戦略が取れたと思われる。
「百花深処」 <代議制>(2018年09月03日公開) |目次コメント(0)

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