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■オリジナル作品:「百花深処」(目次

「百花深処」 <アイヌの交易>

 先達て北海道(道南)を旅する間、『アイヌ学入門』瀬川拓郎著(講談社現代新書)を携え再読した。内容について本の帯(表と裏)の紹介文を引用しよう。

(引用開始)

ダイナミックな真のアイヌのすがた
海を渡り、北方世界と日本を繋ぐ大交易民族としてのアイヌ。中国王朝と戦うアイヌ。中尊寺金色堂の黄金もアイヌがもたらした!?

ステレオタイプを覆し、ダイナミックに外の世界と繋がった「海のノマド」としてのアイヌ像を様々なトピックを通じて提示する。

<本書のおもな内容>

序章 アイヌとはどのような人々か
第一章 縄文 ―― 一万年の伝統を継ぐ
第二章 交易 ―― 沈黙交易とエスニシティ
第三章 伝説 ―― 古代ローマからアイヌへ
第四章 呪術 ―― 行進する人びとと陰陽道
第五章 疫病 ―― アイヌの疱瘡神と蘇民将来
第六章 祭祀 ―― 狩猟民と山の神の農耕儀礼
第七章 黄金 ―― アイヌは黄金の民だったか
第八章 現代 ―― アイヌとして生きる

(引用終了)

 新聞の紹介文も引用しておこう。

(引用開始)

もっぱら「自然と共生する民」として描かれてきた古典的アイヌ像を、近年の研究は覆した。「海のノマド」ともいえる広範な交易は、元との紛争も巻き起こした。黄金を筆頭とする本州との交易品は、都から陰陽師(おんみょうじ)や修験者も呼び寄せた。コロポックル伝説はグローバルな神話世界ともつながる。著者は旭川市博物館館長。<朝日新聞 3/29/2015>

北海道のアイヌ民族は自然信仰と縄文的文化を持ち続けた先住民族だが、その歴史は倭人(わじん)や北方アジアとの大がかりな交易や移動のなかで形成された。日本の陰陽道(おんみょうどう)からの影響、狩猟生活だけに限らない農耕文化、さらに砂金採取で東北中尊寺の黄金文化を支えたという仮説も。<自然の民>のイメージを覆すハイブリッドなアイヌ像を提示する。<東京新聞 4/5/2015>

(引用終了)

 『夜間飛行』「日本海側の魅力」の項でも書いた通り、私は、日本列島への文化の流入ルートとして、いわゆる「時計回り」、シベリアから北海道をへて東北、北陸へと伝わった筈のヒトとモノのトレースに興味を持っている。だからこの本の内容は特に興味深い。北海道の地で読むにも相応しいと考えた。

 紹介文にもあるように、瀬川氏は、アイヌと北方アジアとの交流の歴史を、人種や言語、装飾模様、戦いや交易、伝説など、様々な側面から探ってゆく。オホーツク人との沈黙交易や、渦巻き紋様の北方民族のそれとの類似性、小人(コロポックル)伝説と古代ローマとの繋がりなどなど。

 北方アジアは、ユーラシア大陸を経て南はローマ、北はアイルランドやスコットランドにまで通じている。先日『夜間飛行』「観光業について II」の項で、英国と日本の似ているところ、違っているところをユーラシア大陸文化と関連付けて研究するのも楽しいかもしれないと書いたけれど、その時このアイヌ文化のことも勿論念頭にあった。

 本書には当然アイヌと和人との交流も描かれている。「ナイ」「ベツ」地名の分布からみる居住地の変遷、民間信仰や呪術、疫病や祭祀、黄金と奥州藤原氏との繋がりなど。弥生時代の前にあった縄文時代が日本文化のルーツであるから、縄文の本家筋ともいえるアイヌ文化の重要性はいうまでもない。

 支笏湖の畔で、ニセコの宿で、函館の街で、私は本書を読んだ。函館では、函館市北方民族資料館を訪れ、同館収蔵資料展「アイヌ工芸・匠の技―削る・彫る・刻む―」を見学することもできた。これからも勉強を続けたい。

 アイヌ文化に興味を覚えた人へ参考までに、瀬川氏には他にも、

『アイヌの歴史』瀬川拓郎著(講談社選書メチエ)
『アイヌの世界』瀬川拓郎著(講談社選書メチエ)

などの著書がある。第一刷発行は順に、

『アイヌの歴史』2007年11月
『アイヌの世界』2011年3月
『アイヌ学入門』2015年2月

で、本書『アイヌ学入門』は最新かつ前二冊よりも一般者向けだから、まずこれを読み、そのあと前二冊に進まれると良いと思う。
「百花深処」 <アイヌの交易>(2015年10月25日公開) |目次コメント(0)

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