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■オリジナル作品:「百花深処」(目次

「百花深処」 <イギリスの庭>

 先日『夜間飛行』「英国の歴史」の項で、福田恒存の『私の英国史』(中公文庫)を紹介しつつ、

A 主格中心−所有原理−男性性−英語的発想
B 環境中心−関係原理−女性性−日本語的発想

という複眼主義対比と英語の来歴について触れたが、同じ英国でもこちら『百花深処』では、その庭園について論じてみたい。

 まず、西洋の庭の概略を押さえておこう。『ヨーロッパの庭園』岩切正介著(中公新書)から引用する。

(引用開始)

 ヨーロッパの庭は、古代エジプトとオリエントの庭を源流にして、ローマ時代の庭、中世の庭を経て、およそ、一六世紀のイタリア・ルネサンス庭園、一七世紀のフランス幾何学式庭園、一八世紀のイギリス風景庭園が、それぞれヨーロッパ一円に広まった。一般に、この三つを歴史的に三大様式と呼ぶことが多い。
 二〇世紀には、イギリス現代庭園が生まれ、世界に広まった。現代のガーデニングの元になった庭である。したがって、これを加えた四つの様式の庭が、ヨーロッパの主要な庭園様式だと考えられる。

(引用終了)
<同書「はじめに」より>

 それぞれの庭の特徴を同書から纏めると次のようになろう。

● 16世紀のイタリア・ルネッサンス庭園

都市貴族、教皇、枢機卿の庭。共通する最大の特徴はテラス式。石段、手摺り、彫刻、噴水を備え、また壁龕や飾り鉢がある。そしてまたときに段々滝がある。建築的で立体的、そして中小規模。加えて、眺望式の庭。

● 17世紀のフランス幾何学庭園

絶対王政の庭。城と庭を正対させ、庭の中心を縦に貫く軸線を通し、その中心軸を左右対称に整える。城近くに刺繍のパルテール(整形花壇)、次に芝生や水のパルテール、その先に運河や森というように、手の込んだものから簡略なつくりのものへ階層的に並べる。

● 18世紀のイギリス風景庭園

立憲君主貴族の庭。自然の地形を生かし、館、起伏する芝生と湖、点在する樹木からなり、そこに古典様式の神殿やゴシックの寺院廃墟などが点景物として添えられ、ローマの古典文化やイギリス中世への連想を誘う。

● 20世紀のイギリス現代庭園

中産階級の庭。色彩豊なボーダー花壇が生まれた。芝生と整形花壇、中庭と小池のある沈床園、並木と野ばらの土手、潅木帯、季節の庭やバーブ庭などがあり、処々に安らぎの為のベンチやパーゴラが設えられた。枠組みの規則性と内容の不規則性が対照をなして共存する。

 イギリスの庭の特徴は、西洋では珍しい非整形性だろう。なだらかな丘陵が連なる地形、立憲君主制という政治制度、国教会、フランスへの対抗心などがそれを生み出したといわれる。非整形庭園は東洋の庭と似ているけれど、唯一神が造る自然に似せて造園するという意味で、あくまでもキリスト教文化圏内にその出自を持っている。島国故に離散せず残った古いケルト文化の影響で、ゲニウス・ロキ(土地の霊=自然の地形)への傾倒が他に比べてより深く刻まれたのだと思う。

 18世紀の風景庭園はsublime(崇高な)、あるいはpicturesque(絵画的)という言葉で表現されることが多い。美意識としては都市的な反重力美学(高揚感)が主役だ。造園家としてはウィリアム・ケント(1685-1748)やランスロット・ブラウン(1716-1783)などが有名である。

 20世紀に入り、イギリスではガートルード・ジーキル(1843-1932)やノーラ・リンゼイ(1873-1948)といった女性造園家が活躍し始める。庭造りに女性の手が入ったことで、イギリスの庭は、男性的な反重力美学に加え、女性的な郷愁的美学(エレガンス)を得るようになる。色彩豊なボーダー花壇、季節の庭やハーブ園、さらには隣接して野菜や果樹園などが造られる。いわゆるコティッジ・ガーデンと呼ばれる庭だ。「枠組みの規則性と内容の不規則性が対照をなして共存する」という特徴がそこから生まれた。複眼主義美学からいっても、「高揚感」と「エレガンス」の共存は西洋的美学の王道といえる。日本で今多く造られるのはこのタイプの庭だ。先日『夜間飛行』「庭園を造る」で紹介した本もコティッジ・ガーデンを中心とした話である。

 これからのイギリスの庭を展望するに、21世紀はモノコト・シフト(モノよりもコトに対する関心の高まり)の時代だから、ゲニウス・ロキ(土地の霊=自然の地形)への傾倒がさらに加速すると思われる。ゲニウス・ロキの源にあるケルト文化は自然崇拝の多神教だ。だから日本文化との親近性も強まるに違いない。

 『ヨーロッパの庭園』にも、イギリス庭園の最前線における日本文化の影響が書かれている。園芸家・造園家ベス・チャトー(1923−)について、

(引用開始)

 本人の言葉によれば、自分の作る花壇(島型)のデザインは、日本の生け花にヒントを得た天・地・人を基本に、やや気ままな立体の三角形であるという。三角形をいくつか組み合わせることもある。ちなみに、生け花の天・地・人は、日本庭園の植栽方法では、真(しん)・副(そえ)・対(たい)という不等辺三角形、石組みでいえば、三尊(さんそん)石組みに相当する。

(引用終了)
<同書 236−237ページ>

とあり、造園家ジョン・ブルックス(1933−)については、

(引用開始)

 ブルックスは、自然な庭造りにおいては、日本の庭造りの影響が大きいと指適する。日本の庭園は、自然のエッセンスを造形する庭だから、という。

(引用終了)
<同書 241−242ページ>

とある。これからのイギリスの庭は、今日本で始まっている「庭園都市」や「里山を造る」といった動きとも重なる。

 「庭」や「里山」は、都市と自然との境界に存在する。「庭」造りは、屋敷(人工的なモノ)の側からアプローチして自然をその懐に取り込むが、「里山」造りは、自然の側から接近してその中に屋敷(人工的なモノ)を調和させようとする。どちらも21世紀の街づくりに欠かせない要素といえるだろう。

 尚、本稿を草するにあたり、上記『ヨーロッパの庭』のほか、

『英国庭園を読む』安藤聡著(彩流社)
『森と庭園の英国史』遠山茂樹著(文春新書)
『秘密の花園』バーネット著/土屋京子訳(光文社古典新訳文庫)
『ヘンリー・ライクロフトの私記』ギッシング著/池央耿訳(同文庫)
『旅するイングリッシュガーデン』横明美著(八坂書房)
『イギリス庭園散策』赤川裕著(岩波アクティブ新書)
『ウィリアム・モリスの楽園へ』南川三治郎著(世界文化社)

などを参考にした。
「百花深処」 <イギリスの庭>(2015年08月19日公開) |目次コメント(0)

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