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■オリジナル作品:「百花深処 I」(目次

「百花深処」 <出自と志向>

 前回<複眼主義による思考と美意識の分析>の項で、日本と西洋における思考・美意識の全体像を整理したわけだが、ここに、以前『夜間飛行』「ヤンキーとオタク」「ヤンキーとオタク II」の項でみた、「出自と志向」の考え方を併せるとどうなるだろうか。

 「ヤンキーとオタク」「ヤンキーとオタク II」の項でみたのは、

男性性:「所有原理」「空間原理」
女性性:「関係原理」「時間原理」

という認識・欲望形式をベースに、「人は自分と反対(もしくは同じ)性性を求める」という「出自と志向」の分析、

ヤンキー文化=女性原理のもとで追及される男性性
オタク文化=男性原理のもとで追及される女性性

という原理の抽出だった。

「出自」→「志向」

男性性 → 女性性(オタク)
女性性 → 男性性(ヤンキー)

男性性 → 男性性(マッチョ)
女性性 → 女性性(フェミニン)

ということだ。さらに、

「出自」→「ひねり」→「志向」
男性性 → 女性性 → 男性性(ひねりヤンキー)

といったパターンもみた。

 斎藤環氏は、日本のヤンキー文化は「ノリと気合い」だけだから騙されやすい、騙されないためには、「公共概念」と「個人主義」を再インストールすべきだという。以下、図を使ってそこまでのプロセスを追ってみたい。

 ここで、「志向」はその人が追及する認識・欲望形式だから、それは個が集団(社会)に関わっていく側面であり、交感神経優位の活動として捉えることができる。「出自」の方は、副交感神経優位の状態として捉える。ちょっと強引だが、こうすると、「出自と志向」を、<複眼主義による思考と美意識の分析>で描いた美意識の図を使って表現することができる。
img015.jpg

「都市偏重」は西洋的、「自然偏重」は日本的な美意識であり、下側(副交感神経優位)が「出自」、上側(交感神経優位)が「志向」、いちいち書き込まないが十字の左側が「男性性」、右側が「女性性」だ。

 幾つかのパターンが考えられるけれど、ここでは「出自」として女性性を強く持つ日本人を想定してみよう。
img016.jpg

 彼女(彼)は、まず成長・学習を通して、同じ性性の「志向」を身につけるだろう。
img017.jpg

この上への矢印は、フェミニン文化(女性原理のもとで追及される女性性)を示している。

 やがて彼女(彼)は、学習を通して、反対の性性についても学ぶ筈だ。
img018.jpg

この学習の壁は低くない。だから図では点線で表した。二つの矢印は、彼女(彼)がヤンキー文化(女性原理のもとで追及される男性性)を「志向」する場合の道筋を示している。点線が実線になれば彼女(彼)のヤンキー文化は本物になる。

 しかし、ここまでの図ではまだ彼女(彼)は「自然偏重」の日本社会を出ていない。実際は、もっと早くから「都会偏重」の西洋的思考・美意識を学習するだろうが、図ではまだ西洋的なものを見につけるに至っていない。言い換えれば、彼女(彼)のヤンキー文化は、まだ野卑な「ノリと気合い」に留まっている。彼女(彼)はまだ「コンビニでウンコ座りしているような連中」(佐藤優『反知性主義とファシズム』斎藤環・佐藤優共著223ページ)のうちの一人に過ぎないといえる。

 参考までに、日本的な自然偏重の美意識は、
img013.jpg
 西洋的な都市偏重の美意識は、
img014.jpg
である。

 公共概念と個人主義は都会的なものである。「ノリと気合い」状態を脱して、それを身につけるためにはクロスカルチャーの習得が欠かせない。これを表したのが次の図だ。
img019.jpg 

学習の壁はさらに高い。図では全て点線で示してある。この学習の度合いによって、「ノリと気合い」状態から脱することができるかどうかが決まってくる。

 運よく壁を乗越えて学習が進むと、ようやく全ての「出自」と「志向」が実線で描かれるようになる。斎藤氏がいうところの「公共概念と個人主義のインストール」ができた状態だ。
img020.jpg

ここまでくれば、彼女(彼)のヤンキー文化は、単なる野卑なものから、都会的なものへと進むことができる。抽象的思考を伴う高揚感が身についてくる。エレガントな身のこなしも板に付いてくる。また一方、日本古来の思考・美意識を発揮して、華やかさや寂びたものを愛でることも出来るようになる。わざと「野卑」なドスを利かせて相手をビビらせることもできるようになる。

 以上、思考と美意識の分析を応用して、「ヤンキーとオタク」論に迫ってみたがいかがだろう。簡略な図で説明したが、分かり易かっただろうか。次回はこれをベースに、<バイリンガルとバイセクシャル>について考えてみたい。
「百花深処」 <出自と志向>(2015年07月15日公開) |目次コメント(0)

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