先日広尾の山種美術館で「松園と華麗なる女性画家たち」という美術展を観た。「特別展 上村松園生誕140年記念」ということで、山種美術館が所蔵する松園の絵画18点を(他の女性画家たちの作品と合せて)一挙に公開したものだ。
青山三丁目の交差点から根津美術館の前を通り、美術館通りと命名された道を南へ暫く行くと、左手に美術館の建物が現れる。多少遠いし上り下りはあるけれど、恵比寿方面から行く(上り坂一辺倒)よりも歩きやすい。
上村松園の画は昔から好きだったが、『百花深処』の連載をお読みの方は既にご存知のように、此処のところ複眼主義美学などと称して、反重力美学と郷愁的美学の観点から古今東西のアートを検証しているので、その一環としての見学でもあった。
松園の作品は1913(大正2)年の「蛍」から、1938(昭和13)年「砧」を経て、1948(昭和23)年「庭の雪」、同年「杜鵑を聴く」まで、美術展タイトルにも「華麗なる」とあるように、華やかなることこの上なかった。
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隠者の系譜>のなかで、
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日本列島の女性性の思考は、時間原理に基づく円的な求心運動であり、自然と一体化することで、「見立て」などの連想的具象化能力に優れる。その美意識は、交感神経優位の反重力美学(華やかさ)を主とする。
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と書いたけれど、展示18点のなかでも、特に、針に糸を通そうとする娘を描いた「娘」や、砧を打つ妻を描いた「砧」など、仕事をする女性の姿を描いたものは、力強く、作者会心作のように感じられた。
『夜間飛行』「
交感神経と副交感神経 II」の項で整理したように、仕事をするとき人は、エネルギーを使うために交感神経優位となる。松園の女性画は、針仕事をしたり、砧を打ったり、赤子を抱いたり、舞を舞っていたりするとき、特に華やかな反重力美学の様相を帯びる。勿論「蛍」のように安らぎを感じさせる画も少なくないけれど。これは持論(複眼主義美学)と整合していると思う。
確認のために、当展にはないが、松園の代表的な絵画「鼓の音」の写真を、『上村松園画集』平野重光監修(青幻舎)の表紙から転載したい。視線や鼓を打つ指先に籠もる力強さが、交感神経優位を示している。
参考までにパンフレットから展示されている18作品を列記しておこう。
1 蛍
2 夕照
3 桜可里
4 新蛍
5 盆踊り
6 夕べ
7 春のよそをひ
8 砧
9 春芳
10 春風
11 折鶴
12 つれづれ
13 詠哥
14 娘
15 夏美人
16 牡丹雪
17 庭の雪
18 杜鵑を聴く
美術展は今年の6月21日までとなっている。興味のある方はぜひお出かけいただきたい。