この小説は、1960年代初期に私が住んだニューヨークの生活風景、日本と西洋文化の軋轢、個人の自立などをテーマとしたものです。当時私はこの作品に登場する優子と同じ年頃でした。はじめの数週間はマンハッタンのホテル暮らし、その後は郊外のラーチモントという街にある父の銀行の社宅へ移り住みました。
英語はまるで話せませんでしたが地元の公立小学校に通い始め、はじめはいろいろと困難に出会いました。小説にある英二の図書館での出来事のような体験もしました。
アメリカで生活したのはおよそ1年半ですが、後日、当時の思い出を何らかの形で文章にしておきたいと考えたとき、単なる回想としてではなく、このような小説(フィクション)の形にすることを思い付きました。
「個人の自立」というテーマは、戦後の日本人にとって特に大切なものではないかと思います。個人の自立には、精神的、肉体的、金銭的の三種類ありますが、精神的自立がなかでも最も大切で、他の二つは社会との関わりのなかで、互いに助けたり助けられたりしながら追求されるものだと思います。
現実的には、三つの自立は相互に影響しあいながら進展(あるいは後退)するものですが、小説では、14歳の主人公英二が幾つかの出来事を経て「精神的自立」に目覚め、次を目指して(社会との関わりに向けて)新たな一歩を踏み出そうとする、という内容になっています。この目覚めを一つの区切りとして、主人公たちの戦いは続編として続くことになります。
茂木賛
7/14/2014