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■オリジナル作品:「百花深処」(目次

「百花深処」 <騎馬民族と農耕民族>

 この評論では、列島の父性の源泉として、

(1) 騎馬文化=中世武士思想のルーツ
(2) 乗船文化=武士思想の一側面
(3) 漢字文化=律令体制の確立
(4) 西洋文化=キリストと合理思想

の四つを挙げている。また、列島の古代文化として、

@ 海洋民族としての倭人
A 狩猟民族としての縄文人
B 農耕民族としての弥生人
C 北方アジア由来の遊牧民族

を挙げ、上の(1)から(3)と古代文化との関係を、

(1)騎馬文化=AとCのブレンド
(2)乗船文化=@、B、Cのブレンド
(3)漢字文化=Bのオリジン

と指摘している。ここで、(1)と(3)、騎馬民族と農耕民族の文化的特徴を、『騎馬民族の思想』豊田有恒著(徳間文庫)によって整理しておきたい。

(引用開始)

土地の「農耕」、人材の「騎馬」

 それでは、この騎馬民族と農耕民族という二つの民族のビヘービアには、どのような相違があるのだろうか。その相違については、さまざまな資料がある。農耕民族の最大のものは、漢民族である。かれらは土地に定着し、悠久の昔から、巨大な文明を築いてきた。異人種をすべて野蛮人として見くだし、彼らの方法を、容易に変えようとしない。いわゆる中華思想であるが、よく誤解されるように、かならずしも人種差別ではない。それどころか、人種による差別は、まったくない。かれらのいう華夷の別というのは、華(文明)と夷(野蛮)という文化の差別である。だから、野蛮人の出身であっても、中華文化の文字・風習に通じていさえすれば、まったく差別されることはない。(中略)
 農耕民族というのは、土地にしばられているから、小回りはきかないが、いったん信頼した相手には、信義を貫きとおす。また、それぞれの王朝は、天命によって改まるとされるから、べつだん血筋の貴さということはなく、漢の高祖のように布衣(平民)からでも、成り上がることが可能である。自分の持つ文化に絶大な信頼をおいているから、外来文化にはきわめて排他的である。王朝というのは、すべて成り上がりであるから、権威づけのため、巨大な宮殿をつくったりして、贅沢のし放題をする。王位は、長男がつぐ。どれほど無能な王をいただいても、農耕という生産経済は、システムとして機能するから、破綻は起こらない。長男は建儲(立太子)のときから、他の兄弟よりも一段と高い位置に置かれる。総じて、農耕民族は、きわめて保守的で、鈍重であるが、逆にねばりづよく、長期的な計画――たとえば黄河の治水などに、こけのようになって努力を集中できる。
 これに対する騎馬民族は、かならずしも、ひとつの民族ではなく、さきにのべたような様々な人種があるが、かれらに共通するビヘービアがあることは、モンゴルの征服王朝元や、鮮卑民族の北魏や、漢の北辺を騒がした匈奴や、近世では女真族のたてた清などに関する、歴代の中国文献から、古代のそれを外挿的に想像できる。
 騎馬民族では、王になれる家柄というのが決まっている。匈奴では攣鞮氏族、モンゴルではボルジギン氏族、そして日本では××氏族というふうに、決まっている。これら、天から降ったという始祖伝説をもつ、万世一系の選ばれた家系以外から、王がでるということは絶対にない。
 したがって、臣下の誰かが権力を握ろうというときには、この選ばれた氏族のうちから、自分に都合のよい一人を立てて、黒幕となって権力を手にしようとはかるしかない。王は、長男とは決まっていないから、重臣がそれぞれに候補をたてて、選挙によって決定する。ときには、選挙のもめごとが、内乱になることもある。
 騎馬民族は、厳しい自然のなかで、暮らしている。つまり、無能な王をもてば、部族全体が餓死するかもしれないのである。牧草のある場所をよく知っていて、しかも戦いに巧みで、臣下の人望がある――そういう人物を選出しなければ、部族全滅の危機がつきまとうのである。また、女性の地位は、きわめて高い。まえの王が死ぬと、その妃の未亡人が、つぎの王を決める選挙管理委員長のような役割をする。幼少の王が立つと、執政を兼任する場合もある。なぜなら、騎馬の射撃戦では、剣をとって戦うのとくらべると、弓の狙いさえ確かなら、女でもひけをとらないからである。

(引用終了)
<同書 177−179ページ(傍点フリガナ省略)>

同書の他の記述も参考にして纏めると、

------------------------------------
騎馬民族:天から降ったという始祖伝説を持つ、合議制、能力重視、移動性強い、女性の地位が高い、相続は選ばれた家系のなかで争われる、攻撃的

農耕民族:天は道徳の基準で抽象的な存在、中華思想(排他的)、土地重視、定着性強い、女性の地位は低い、長男相続、保守的
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といったところか。豊田氏は、狭い日本列島内では 騎馬民族と農耕民族の文化は攪拌され平均化されるとした上で、平安時代はどちらかというと農耕民族的、鎌倉時代は騎馬民族的、室町時代はふたたび農耕的、戦国は両者争いの時代、天下人として信長は騎馬民族的、秀吉・家康は逆に農耕民族的特徴が強かったとしておられる。

 列島に入ってきた騎馬文化は、狭い国土面積、豊かな自然環境などにより、農耕文化の土地重視、定着性といった特徴を受け入れつつ、<中世武士の思想>なるものを形成していったと考えられる(能力重視や移動性といった特徴は、武士思想の一側面としての乗船文化の方に引き継がれた)。
「百花深処」 <騎馬民族と農耕民族>(2018年07月15日公開) |目次コメント(0)

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